前村大成

ベトレヘムの園の雑木林脇の細道を歩いていたとき、林の下草を刈っていた人に「そこに、沢山の桑の実が落ちていて、小鳥が食べに来ていたよ」と声をかけられました。見てみると無数の干からびた黒い桑の実が落ちていました。学童時代に同じ村の友達数人と、通学路からそれた畑道に入って桑の実を口にしながら道草をして家に帰った日々や、桑畑で桑の葉を採取していた情景を思い出しながら、わずかに実を残している梢を見上げて「大きい桑の木ですね」と感歎していると、「あっちにはもっと大きな桑が2本あるよ」と教えてくれました。郷里の桑畑の桑の木は、大人の手が届くぐらいの高さだったと記憶していますが、この桑の木は道を隔てた隣の大きな病院の4階以上に達する高さで、幹は根元近くで2つに分岐していました。当院開設期の写真を先日改めて見たところでしたので、この桑の木も当時からベトレヘムの園全体を広く眺めてきたのかと思うと、写っていた人の姿や当時の建造物が、途端に生気あふれて蘇ってきたように思いました。 桑の木は落葉樹ですが、温暖地では常緑樹のようにもなります。葉は切り葉と丸葉があり、カイコの飼料として養蚕に利用されるのが桑の最も重要な用途ですが、桑茶にも利用されています。栄西が『喫茶養生記』でお茶の効能、効用を書いているそうです。果実は多汁で甘く、マルベリージャムになる他、ブドウと同様に発酵させて桑実酒が作られます。 南ヨーロッパでは上手に桑を剪定して街路樹や並木にしたりしているようです。八王子には桑の並木があるそうですので、是非一度訪れてみたいと思っています。